夢を見た。
私が佐伯に監禁されている。
全裸で繋がれている私の拘束をとき、心此処に在らずな私を抱きしめて佐伯はこう言った。
貴方を解放します、と………。
私を抱きしめた佐伯の身体は温かかった。
佐伯に身体を丁寧に拭かれ服を着せられる。周囲に散らばった物を片付けると佐伯は自らの支度をし始めた。
ああ、ここを出ていくのか。
すると佐伯はもう一度私を抱きしめた。温かい………。抱きすくめられているため、私からは佐伯の表情を伺うことは出来ない。私を抱きしめている手に少しだけ力を込める。それは壊れものを扱うような優しい抱擁。そして彼はぽつり、ぽつりと話しはじめた。
このままでは、貴方を駄目にしてしまうと。本当はずっと好きだったと。だから…
そうか。もう一緒にはいられないのか………。
だったらせめて、あと少しだけでもこうしていてくれ。
私と一緒にいることでお前が駄目になってしまうというのなら。
もう二度と会わないと誓うから。
だから、あと少しだけ………最後にせめて
名前を呼びたい。
佐伯。佐伯、佐伯………!
心の中では何度も呼んでいるのに。声が出ない。体が動かない。
こんなに近くにいるのに。
伝えたい。
伝わらない。
会うのもこれが最後だというのなら。
もう名前を呼ぶのも最後だと………約束するから………
佐伯は立ち上がり私に背を向けた。そして、玄関へと歩いていく。
駄目だ………まだ行くな………!
まだお前の名前を呼んでいない。
気付いてくれ。
お願いだから…最後に。
名前だけでも………!
佐伯、佐伯、佐伯、佐伯、佐伯っ………………
伝わらない。
どうして。
お願いだ。
気付いてくれ。
まだ行かないで。
一人は嫌だ。
一人にしないで………
「私も…お前のことがずっと…………」
ガシャン…
ドアの閉まる音が、
佐伯が此処から立ち去ったことだけを告げていた………。
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